2010年10月31日日曜日

柳田民俗学のバイアス〜声の国民国家

(P88)
●チョンガレやデロレン祭文などの物語芸能は、近代の浪花節の中に発展的に吸収・解消されていく。だが、近代にはいって、流行した浪花節に対して、近代以前に地方伝搬していたチョンガレや祭文は、しばしば盆踊りの音頭・口説と集合して、土地に根付いた形で伝承される地域が少なくない。チョンガレ、祭文、踊り口説などが、しばしば市町村史類の民俗編などに取り上げられる理由だが、しかし近世に流行したそれらの物語芸能を、郷土芸能・民俗芸能といったローカルな枠組みでとらえることは、問題の重要な側面を見落とすことになる。かつて全国規模で流通したチョンガレや祭文は、民俗(フォークロア)研究のバイアスを取り払って考察される必要がある。

(P90)都市的な大衆芸能
●デロレン祭文は、浪花節とセットして考察されるべき近世・近代の物語芸能である。それは、柳田国男がイメージしたような中世の山伏祭文などに直結する芸能というより、幕末期に全国展開したきわめて都市的な大衆芸能だった。
●…柳田の関心は、物語の内容には向かっても、それを語る祭文の芸そのものには向かわない。昭和10年代当時は、山形県にプロの祭文が足りが盛んに活動していたが、しかし同時代的な声の世界に無関心なのは、柳田の「口承文芸」研究の特徴だった。柳田がその民俗学的な「口承文芸」研究の大正から、浪花節とその隣接芸能を周到に排除していた。
●山形県で行われたデロレン祭文は、決して山形方言では語られない。また、奈良県や三重県のデロレン祭文も、奈良・三重の方言では語られない。祭文の語りに使用される言葉は、講談や浪花節にも共通する一種独特の語り口調である。…旋律を持たないコトバの部分も。邦楽研究者の言う「吟踊(講談口調の語り)」であって、日常口調とは違う発声が行われる。
●芸人(非常民)の声によって伝搬・流通する物語を通して、地域や階層を超えた日本社会の文化的なアイデンティティが形成されていく。それは…日本近代の「国民」国家が形成される前提条件ともなる…。

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